戦術理論
低学年のサッカー指導に戦術は必要なのか?
勝つか負けるか。
サッカーチームで、子ども達の指導をしているみなさんは、誰もが経験すると思います。
スポーツには勝ち負けが付き物で、勝つときもあれば負けるときもあります。
「育成年代で低学年だから、サッカーの勝ち負けは重要ではない」と思っていても、やはり負けるのは気分が良くありません。
子どもたちが負けて悲しむ姿を毎回見たいとは思わないはずです。
他の低学年の子どもが衝撃を受けるほど上手にサッカーをしていて、そのことに影響されて練習を真似ても、同じように上手になるとは限りません。
さらには、その方法が正しいかどうかわかりません。
低学年からサッカーで勝つための戦術を教え込んで、子ども達に勝たせてあげたいけれども、果たして育成のためになるのかという葛藤がついて回ります。
どのような結果になろうと、ご自身のサッカー育成哲学がブレないようにするための指針が必要になるのではないでしょうか。
今回は主に低学年のサッカー指導における戦術という観点から育成について考えていきたいと思います。
そもそも、サッカーの戦術とはなんでしょうか?
「戦術」はもともと軍事用語として使われていましたが、今はビジネスの世界やスポーツの世界でも、広く一般的に用いられています。
ここでは、戦術とは「目的を達成するために、戦闘力の効果を最大化するための手段」と仮に規定しておきます。
サッカーでいうとフォーメーションであったり、攻め方や守る方法を規定するものが多いです。
サッカーで各個人が必要な要素として、「技術」「フィジカル」「戦術」「メンタル」の4つが重要視され、
この総合値を高めることを目標に、選手育成の指針にもなっています。
もちろん、低学年のサッカーであっても、求められるレベルは違えど変わりません。
例えば極端に言えば、小学校6年生で足も速く、テクニックに優れ、メンタルも強いのにフォワードの言葉の意味すらも知らなければ問題ですよね。
またサッカーの「戦術」とは「どのようにプレーするのか」ということでもあります。
サッカーのプレーを成り立たせているサイクルの「観る」→「判断する」→「実行」のうち、「観て判断する」のが戦術的な要素です。
このことから、「戦術」はサッカーにとっても重要であると言えそうです。
観られない、判断できない選手が、良い選手なはずがありません。
では、サッカーの指導として、育成年代の特に低学年代に教える必要はあるのでしょうか。
サッカー育成年代のみならず「個人か戦術か」という議論がなされています。
サッカーの戦術を教え込むと、個人が育たないと良く言われます。
確かに型にはめてしまうと、個人が判断する機会を奪い、個人の成長を阻害する側面もありそうです。
しかし、ここで一度立ち止まって考えて見てください。
「戦術」は戦闘力、すなわち「個人の能力」最大化するための手段です。
また、戦術もサッカーでは
・1人で行う「個人戦術」
・複数人数で行う「グループ戦術」
・チームで行う「チーム戦術」
の3つに分けられ、もちろん低学年のサッカーでもそれぞれ必要な要素が分けられています。
「個人戦術」は文字通りで、例えば1対1の場面でどのように相手を突破したりマークを外すのかというような事を言います。
「グループ戦術」は例えば、2人である局面を突破する方法のことを指します。
ワンツー突破もグループ戦術の1つです。
「個人」「グループ」の戦術は差はあれど、低学年代でも必要だと理解頂けると思います。
では「チーム戦術」はどうでしょう。
例えばフォーメーションや大まかな攻撃、守備の方法は、レベルに応じて3年生ぐらいから取り入れてもいいでしょう。
「ゴールを奪う」「ゴールを守る」ためにチームでどんな事を頑張れば良いか、子どもたちでミーティングさせるのも「戦術指導」の1つです。
戦術指導は、正しい知識で理解できるタイミングであれば、「個人」を阻害するより寧ろより延ばすことに繋がります。
ドリブルが得意な選手はドリブルだけやらせておけばいいはずが無く、チームの為に守備に走る事も教えなければなりません。
低学年のサッカーであっても発育発達に応じて段階的に戦術指導は行えるし、正しい指導は能力を総合的に向上させる為にも戦術指導が必要なのは間違いないです。
問題は、「正しくない」事です。
低学年でも、びっくりするくらい強いチームがあったり、サッカーではありえないスコアの試合を目にします。
勝ったチームの指導が素晴らしくそのような結果に至ったのかもしれませんが、そのことに対して心配する必要はありません。
低学年のサッカーでは、身体能力やテクニックの差はとても大きく、直接試合に影響します。
低学年ですから、サッカーを始めたばかりの選手もいますし、身体の成長の成長の度合いもバラバラなのは当然です。
それは、「戦術」についても同じ事が言えます。
低学年のサッカーは、団子サッカーになりがちです。
そんな中で、低学年の同年代の中で上手な子どもたちが、ピッチを広く使ってサッカーをしたら、敵うはずがありません。
特に低学年のサッカーでは、「知っている」ということは、大きな武器となります。
子どもにやる気があったり親御さんが経験者であったりすると、早い段階でサッカーの知識を身につけるとそのような事が起こります。
少し見えてきましたでしょうか?
低学年のサッカーでの強さのほとんどは、「早熟だから」という言葉で片付けられます。
学年が上がれば上がるほど、サッカーの能力も向上し、知識も身につけていきます。
本人とコーチの努力次第で、いくらでも追いつき、追い越すことができます。
また、低学年代でチームが強過ぎると、子どもや保護者の「勘違い」に繋がりやすいので注意が必要です。
決して低学年の結果に悲観しすぎる必要はありません。
また、低学年のサッカーの戦術指導は、「教え込むこと」に繋がりやすいです。
なぜなら、学年が下であればあるほど思考能力が高くない為、レベルの高い戦術指導を行うには教え込むことでしか子どもたちは答えを得られないからです。
教え込み過ぎると、自分で判断出来ない選手に育ちます。
低学年代のみならず、サッカーで戦術指導の際は「問いかける」ことを意識させてください。
自分で答えを見つけることは大切です。
例えば、「広がって攻撃した方が良い」という同じ戦術指導でも、始めから答えを教えるのと、問いかけ導くのではその後に大きく影響しますから。
1年生が、攻撃をやり直し丁寧にビルドアップすることを自分で導き出せたら、その子は天才ですよ(笑)
自分で考えるクセがつけば、きっと良い選手になってくれるでしょう。
大切なのは、発育発達に応じて、段階的に指導することです。
「低学年だからサッカーは教えなくても良い」と「低学年からサッカーの試合に全て勝たせる必要はない」は違います。
戦術指導であっても、低学年代でサッカーの原理原則をから、少しずつでも良いので、伝えていただけたらと思います。
その中で、サッカーを思い切り楽しめる子どもたちに育ててあげてください。
どうか、勝ち負けに惑わされず、皆さんの育成哲学を貫いてください。