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    サッカーでパスがもつ意味を知り、よりハイレベルな指導を目指す


    指導者であるみなさんは、サッカーのプレーで「パス」と言う言葉から何を想像しますか?
    例えばジュニア年代であれば、「パスよりもドリブルをさせるべきだ」「簡単に横パスをさせずに、積極的に前に攻めるべきだ」という消極的な意見があります。

    一方で「自分たちは能力も低く小柄だから、ショートパスを多用して攻める」や、「ボールは疲れないし、人間よりも速い」といった感じで、ポジティブなイメージを想起させる物もあります。
    「パス」だけではありませんが、これはみなさんが持つ指導の哲学に関する部分です。
    自分で悩み考え出した哲学はきっと、目の前の選手に伝わり落とし込まれ、その哲学が体現されていくのでしょう。
    ただ選手のプレーに関して、自分の哲学から導き出し、その全てを否定してしまうのは違う気がします。

    ジュニア期からユースまでといった一貫指導のシステムが存在していれば、少し話は変わりますが、ほとんどの選手はいつか自分の手元を離れ、また別の指導者の元で指導を受けることとなります。
    大切なのは、プレーが持つ意味と、選手がそのプレーを選択するに至ったプロセスです。
    どこにいっても通用し、自分で判断できる選手を育成するためにも、指導者も日々サッカーを学び、選手に学ばせなければなりません。
    そのプレーにはどのような意味があるのかと言うことを、です。
    今回はサッカーの中でも、「パス」というプレーに焦点を当て、そのプレーが持つ意味を考えていきたいと思います。

    サッカーのパスは速ければ良いというわけはない

    サッカーのパスのトレーニングで、選手が弱いパスを出してしまった時に、「パスが遅い」と指摘したことはありませんか?
    私もよく指摘します。
    速いパスを習慣化させるためのコーチングとして大切ですからね。

    しかし、それは全ての場面において正しいと言えるのでしょうか?
    確かに、マークにつかれている味方に緩いパスを出すと、パスをカットされてしまうでしょうし、狭いコースをパスで通すには、ある程度のスピードが無いと、相手に引っかかります。

    しかし、ダイレクトでボールを要求する場合、あなたなら味方にどのような要求をしますか?答えは明白ですよね。
    また、マークにつかれているが距離が遠い場合、あえて緩めのパスを通してみてはどうでしょう。
    取れそうで取れないスピードです。
    相手は一瞬判断に迷い、中途半端なプレスを誘発し、攻略したいスペースを下の図のように、開けることができるかもしれません。
    また、必ずしも、テンポが早ければ良いというわけではありません。
    スペインでは華麗なパスワークを、時計の針の「チクタク」の音に例えた、「ティキ・タカ」と言うスタイルが存在します。

    しかし、いわゆるパスサッカーの代名詞とも言えるマンチェスターCのグアルディオラ監督は、「ティキ・タカ」を完全に否定しています。
    理由は単純で、ただパスを回すだけでは、意味がないからです。
    あえてテンポを遅らせて相手を引きつけ、パスを受けた味方をフリーにする事もできます。
    その数秒の駆け引きは、スペインの選手が非常に優れているところでもあります。
    おそらく、育成年代の一貫指導の中で、そのようなコンセプトが選手たちに落とし込まれているのだと思います。

    サッカーで「サポートをしない」というサポートもある

    サッカーで「パス」というプレーを成立させるには、出し手と受け手が存在しなければなりません。
    ここでは、受け手に注目して見ましょう。
    サッカーでは、ボールを持った味方に対して、近づくなりしてパスを受けるプレーを「サポート」というのはご存知の通りだと思います。

    例えば、後方から丁寧にパスを繋ぐスタイルのチームであれば、選手の距離感は近く、ボールを持った選手に対して複数のパスコースを作るでしょう。
    ただ、1対1でボールを持つと、殆どの確率でその局面を打開できる能力を持つ選手がいる場合はどうでしょう?
    サッカーの目的は、「ゴールを奪う」ことです。
    目的から逆算して考えた場合、わざわざサポートするために、近づくよりも離れてしまった方が、自分のマーカーも引き離し味方に有利な状況を作り出すことができるかもしれません。
    縦に突破するのが得意なプレーヤーであれば、上の図のように、パスコースを開けるのもありですね。
    サッカーでチームは勝つために、例えば「ショートパス中心のポゼッションサッカー」で戦略を立てます。

    しかし、特徴を持った選手がいるのであれば、このような方法を、その試合の戦術に組み込んでも良いと思います。
    選手の能力の最大化が、戦術の目的ですからね。
    特に育成年代では、選手の長所を伸ばすために、型にはまりすぎないよう注意が必要です。

    サッカーでパスをたくさん回すのはどうなのか?

    グアルディオラ監督が「ティキ・タカ」を否定した話は先程しましたね。
    確かに、サッカーの目的はゴールを奪い、ゴールを守ることですから、ただパスを回すだけでは何の意味もありません。
    では、いわゆる「ポゼッションサッカー」では試合に勝てないのでしょうか。
    そんな事はありません。

    実際今までのサッカー史において「ポゼッション」のスタイルのチームが多くの勝利をもたらした事もあります。
    たくさんパスを回すスタイルでも勝てる方法が存在すると言うわけです。
    その方法は、「ポジショナルプレー」という概念を用いるとわかりやすいでしょう。
    「ポジショナルプレー」はチェスが語源で簡単に言うと、「攻め手が無い時に、駒の位置(ポジション)を調整し、戦況を有利に持っていく方法」だと言えます。
    サッカーに置き換えられそうですね。

    グアルディオラ監督の場合は、「ボールをたくさん動かす事で、相手を動かし、自分たちのポジションを整える」事を目的に、ポゼッションのスタイルを用いていました。
    これは攻撃、守備両面において効果があります。

    まず、ボールを長短織り交ぜたパスで動かす事で、相手の目線を動かし、相手の守備陣形を崩して得点の機会を伺うことができます。
    そして守備においては奪われた瞬間もこちらのポジションは整っており、相手の陣形は崩れているので、効果的なカウンターを未然に防ぎ、速くボール奪い返すことができます。
    グアルディオラ監督が「15本以上はパスを回さなければならない」といった趣旨の発言をしたそうですが、このような意味があったからなんですね。
    「ポジショナルプレー」については、ネットで検索すればたくさんヒットすると思います。
    興味があれば、ぜひ調べてみてください。

    まとめ

    ・状況に応じてパスのスピードを調整する
    ・目的を持って味方をサポートする
    ・ボールではなく、「相手と自分たち」を動かすためのパス回しがある

    以上3つの考えがサッカーで「パス」というプレーを考える時に、知っておいて良い知識だと思います。
    そしてこの3つに共通するのが「勝つ」ために目的から逆算したプレーだと言うことです。

    何度も言いますが、サッカーの目的は「ゴールを奪うこと」「ゴールを守ること」です。
    華麗なパスワークに魅せられ、その上辺だけを真似しても意味がありません。
    そのプレーが持つ意味をしっかり理解し選手たちにプレーさせ、少しずつプレーを学んでもらう必要があります。
    プレーを学び、プレーが持つ意味を理解する事で、それが選手がより良い判断をするための手助けとなってくれるでしょう。

    執筆者

    シェアトレ運営部

    シェアトレを運営している筑波大学のメンバーです。日々指導者のために勉強中です


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